世界農業遺産(GIAHS)とは

更新日:2023年04月01日

目次

  • 世界農業遺産とは
  • 認定事例

世界農業遺産とは

世界重要農業遺産システム(Globally Important Agricultural Heritage Systems
→ GIAHS(ジアス)

社会や環境に適応しながら何世代にもわたって形づくられてきた農業上の土地利用、伝統的な農業と、それに関わって育まれた文化、景観、生物多様性などが一体となった世界的に重要な農業システムを、国際連合食糧農業機関(FAO)が認定する仕組みです。

近代化の中で失われつつある農業・農法や生物多様性などを、「生きた遺産」としてその保全と持続的な活用を図り、次世代へ継承していくことが求められます。

認定事例

出典:農林水産省

令和5年2月現在、世界で24ヶ国74地域、日本では13地域が認定されています。

石川県能登地域「能登の里山里海」(2011年6月認定)

石川県の能登地域は美しい農村風景が見られ、棚田やため池による里山の景観と、海女漁、揚げ浜式製塩など里海の資源を活用した伝統技術が受け継がれています。また、「あえのこと」やキリコ祭りなど、農業と結びついた風習や文化が多く残っています。

山の斜面に作られた棚田とその向こうに広がる日本海の写真

新潟県佐渡地域「トキと共生する佐渡の里山」(2011年6月認定)

新潟県の佐渡地域は、金山の歴史が生み出した棚田などの水田で、冬期湛水など「生きものをはぐくむ農法」とその認証制度を推進しています。また、農業は、能、鬼太鼓などの農村文化の発展につながり、佐渡独自の自然、風景、文化、生物多様性を保全しています。

稲刈りが済んだ田んぼに降り立った2羽のトキの写真

静岡県掛川地域「静岡の茶草場農法」(2013年5月認定)

静岡県の掛川周辺地域は、伝統的な「茶草場農法」が営まれています。これは茶園近くにあるススキなどの草原(茶草場)の乾草(茶草)を茶園の土づくりに用いるもので、茶の品質を高めながら、同時に半自然草地特有の生物多様性を保全しています。

山の斜面に広がる茶畑とお茶の木で描かれた「茶」という文字の写真

熊本県阿蘇地域「阿蘇の草原の維持と持続的農業」(2013年5月認定)

熊本県の阿蘇地域は、千年以上続く「野焼き」などの伝統的な草原の管理方法により、木が生い茂るのを防ぎながらあか牛の飼育に必要な草資源を確保するなど、持続的な農業の営みによって雄大な自然景観を維持しています。

広々とした草原の水辺に集まったあか牛の群れの写真

大分県国東地域「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島宇佐の農林水産」(2013年5月認定)

大分県の国東半島宇佐地域は、日本一の原木しいたけ生産や、日本で唯一の水稲作とシチトウイを組み合わせた生産をはじめ、多様な農林水産業が営まれているシステムです。これらは日本最大のクヌギ林と、連携するため池群によって持続的に維持されています。

沢山の椎茸の原木にビニールシートがかけられて並んでいる写真

岐阜県長良川上中流域「清流長良川の鮎」(2015年12月認定)

岐阜県を流れる長良川は、漁業者や市民団体による水源林の育成や河川の清掃など、人が適切に管理することで、資源を保全するとともに良好な環境を生み出し、清流に育まれた漁業、農業、林業などの産業が発達している「里川」です。なかでも、鮎を中心とした内水面漁業が盛んで、鵜飼漁をはじめとした伝統的な漁法が数多く受け継がれ、鮎を使った郷土料理も食文化として根付いています。
また、清流が保たれることにより、美濃和紙や郡上本染などの水と密接なつながりのある伝統工芸が引き継がれ、長良川の持続的なシステムを育んでいます。

広々とした長良川とその川岸に建つ民家の写真

和歌山県みなべ・田辺地域「みなべ・田辺の梅システム」(2015年12月認定)

みなべ・田辺地域は、その土地を養分の乏しい礫質の斜面が占めており、斜面にウバメガシの薪炭林を残しつつ梅林を開墾して、高品質な梅を生産しています。薪炭林は水源涵養や崩落防止等の機能を保持するとともに、ウバメガシからは堅くて良質な「紀州備長炭」が生産されています。

また、梅が果実を実らせるために花粉を運ぶ役割を果たしてくれるのが、薪炭林に生息するニホンミツバチです。ミツバチにとっても、梅はまだ花の少ない2月頃から蜜を提供してくれる貴重な存在であり、両者の間で見事な共生関係が築かれています。地域に住む就業者の7割は梅の産業に関わっており、梅は地域の基幹産業として人々の暮らしを支えています。

白い花が咲いた梅の木の枝の写真

宮崎県高千穂郷・椎葉山地域「高千穂郷・椎葉山の山間地農林業複合システム」(2015年12月認定)

森林に囲まれ平地が極めて少ない環境下で、人々は針葉樹による木材生産、広葉樹を活用したしいたけ生産、高品質の和牛生産、茶の生産、棚田での稲作等を組み合わせて生計を立ててきました。標高の高い傾斜地で農業用水を確保するために建設された山腹水路は500キロメートルにも及び、用水供給のほか、斜面を流れ落ちる雨水を受け排水することで、周囲の集落を災害から守る役割を果たしています。

また、地域に伝わる伝統文化「神楽」は、五穀豊穣などを願う神事の舞踏です。現在もほとんどの集落で神楽が奉納され、厳しい山間地で暮らす人々が生活の安定を願う祈念の場として大切に受け継がれています。

宮崎県高千穂郷・椎葉山を上空から写した写真

世界のGIAHS認定地域(農林水産省)

世界で24ヶ国74地域が認定されています(令和5年2月現在)。