世界農業遺産「持続可能な水田農業を支える『大崎耕土』の伝統的水管理システム」

更新日:2023年04月01日

目次

  • 認定地域の概要
  • 伝えたい地域の生きる遺産と取り組み

認定地域の概要

大崎地域の1市4町(大崎市、涌谷町、美里町、加美町、色麻町)のエリアが世界農業遺産および日本農業遺産として認定されています。

本地域は、江合川、鳴瀬川の流域に広がる野谷地や湿地を水田利用することで、水田農業地帯として発展してきました。その一方で、東北の太平洋側に特有の冷たく湿った季節風「やませ」による冷害や、山間部の急勾配地帯から平野部の緩勾配地帯に遷移する地形的要因による洪水、渇水が頻発している地域でもあります。しかし、本地域の農家は、厳しい自然環境下で食料と生計を維持するため、「水」の調整に様々な知恵や工夫、多くの苦労を重ねながら、稲作を中心とした水田農業を発展させ、「大崎耕土」と称される豊饒の大地を継承してきました。

申請区画の地図

世界農業遺産認定をきっかけとして、大崎地域の基盤である資源豊かな農業を活かした地域の活性化と、一層誇りある地域づくりを目指しています。

  • 大崎地域に存在する里地・里山の宝(豊かな農業、景観、生物多様性)の再認識と活用
  • 地域の宝に光を当て、守り、磨き、育む体制づくり
  • 地域外への発信・共有と地域間交流の促進
「持続可能な水田農業を支える『大崎耕土』の伝統的水管理システム」の概要図

 図:「持続可能な水田農業を支える『大崎耕土』の伝統的水管理システム」の概要

伝えたい地域の生きる遺産と取り組み

  • 農業を支える巧みな水管理
  • 豊かなランドスケープ
  • 伝統的な農文化
  • 生物多様性と共生する農業
  • 次世代へ継承される農業システムへ

農業を支える巧みな水管理

 

 本地域では、厳しい自然環境下での水田農業を可能とするため、中世以降、取水堰(しゅすいぜき)や隧道(ずいどう)・潜穴(せんけつ)、ため池、用排水網など、営農の前提となる用排水の確保に力を注ぎ、水温を巧みに活用した育苗や深水管理(ふかみずかんり)、昼間止め水などの複数の「やませ」対策技術を講じてきました。また、洪水時の備えとして、遊水地を設け、浸水被害の軽減を図ってきました。これらの巧みな水管理は、伝統的な相互扶助組織「契約講(けいやくこう)」を基盤とする水管理組織によって行われています。

 

大崎耕土の巧みな水管理と水田農業の概要図

図:大崎耕土の巧みな水管理と水田農業

大崎耕土の巧みな水管理基盤の地図

図:大崎耕土の巧みな水管理基盤

木々の生い茂った山道で長靴をはき、水管理の作業をしている5名の男性の写真

写真:山間部で370年間続けられている地域住民による水管理(大崎市鳴子温泉地域南原地区)

豊かなランドスケープ

 巧みな水管理の主体である農家の暮らしを支えるのは、屋敷を取り囲んで洪水や冬の北西風から守る屋敷林「居久根(いぐね)」です。居久根は、多様な樹種や草本類で構成され、日々の身近な食料生産の場として利用されるとともに、「水田に浮かぶ森」として、周辺の水田や水路網とつながり、多くの動植物の生息環境を提供する独特のランドスケープ(景観)を形成しています。

水田の中で周囲を木々に囲まれた1件の居久根の写真

写真:水田に浮かぶ森「居久根」

居久根と水田を行き来する生きもののイラスト

図:居久根と水田を行き来する生きもの

伝統的な農文化

農家の営みからは、水の恵みをもたらす山々を信仰する自然崇拝的な民間信仰や豊穣への祈りと感謝を表す様々な農耕儀礼や民俗芸能が生まれ、農作業の疲れを癒す「湯治」文化も育まれました。また、厳しい農作業の節目の楽しみの食「餅料理」や酒、味噌、醤油などの発酵食、水田漁撈(ぎょろう)によって得られる巧みな水管理の副産物であるドジョウ、フナ料理など、多様で豊かな食文化が生まれています。

着物を着て弓を弾いて的を狙う子ども、その様子を見守る数名の住職と見物客の写真

写真:新年の農作物のでき具合を占う箟峯寺の正月儀礼「御弓神事」(涌谷町)

お膳に並んだ、ぜんざいなどのもち料理の写真

 写真:大崎耕土の伝統食文化「餅」

生物多様性と共生する農業

巧みな水管理による水田農業は、水田の持つ湿地生態系に依存するマガンをはじめとする多様な生きものの保全に貢献するとともに、カエルやクモ、トンボなどの土着性天敵による害虫被害抑制という農業上の共生関係を構築しています。他方で、米価の低迷とともに、農薬・化学肥料への依存、農家の高齢化、担い手不足から、巧みな水管理の継続や水田農業が支えてきた生物多様性の保全機能の低下が危惧されています。本地域では、この社会的な危機要因に対して、食の安全・安心や生物多様性の重要性を認識し、生態系機能を活かした害虫管理による有機栽培米や環境保全米の生産、6次産業化を図り、産地と消費者との交流を通じた信頼の構築と共に支え合う新たな流通の仕組みを構築してきました。

天敵を活かした田んぼの害虫管理の模式図

図:天敵を活かした田んぼの害虫管理の模式図

田んぼの中んでしゃがみ込んで生き物を探している親子連れの写真

 写真:農産物の消費者が参加する田んぼの生きもの調査(大崎市田尻地域)

次世代へ継承される農業システムへ

この地域には、大切な農業システムを継承する仕組みが整っています。

たとえば農家は、自然と共生する農業によるブランド化、発酵技術を活かした6次産業化に取り組んでいます。

加えて、

  • 産直活動が芽生えた35年前からこの地域で行われている産直交流
  • 「鳴子の米プロジェクト」に代表されるCSA(Community Supported Agriculture:消費者コミュニティが支える農業)
  • 子どもたちによる「おおさき生きものクラブ」による活動

など、消費者交流と未来の担い手を育てる仕組みが培われています。

また、この地域の多様な主体が、主要な産業である農業を支える取り組みが整えられています。 

地域で互いに支え合い、農業システムを継承する仕組みのフロー図

 図:地域で互いに支え合い、農業システムを継承する仕組み

この記事に関するお問い合わせ先

農政企画課 世界農業遺産未来戦略室

〒989-6188
大崎市古川七日町1-1 市役所本庁舎3階

電話番号:0229-23-2281
ファクス:0229-23-7578
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